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引用元:2016.5.4 10:01 産経ニュース

 新学期が始まって約1カ月。小中学校では家庭訪問を行うところが多い時期だ。かつては担任の教員が家に上がり、子供部屋などを見ることもあった。しかし最近は、玄関先だけで済ませるケースが少なくないという。背景には、迎える保護者も訪ねる教員も忙しい、という事情がある。教育関係者は「場所は問わないので、学校と保護者との信頼関係を築く機会にしてほしい」としている。(木ノ下めぐみ)

 ◆立ったまま

 「先生、お話は玄関でも構いませんよね」

 大阪府東部で小学校教員をしていた男性(44)は20年程前、家庭訪問先で保護者からこう言われ、驚いた。玄関の上がり口に座布団が敷かれており、家の中には入れなかった。

 「自分が子供の頃、担任の先生は子供部屋も見ていたのに…」と戸惑いを覚えたが、その後もそう言われることが増えた。「変わってきたんだなあと思いました」

 神戸市内の小学校に2人の子供を通わせている会社員の女性(44)は、長女が1年生だった昨年、初めて家庭訪問を受けた。リビングで15分ほど懇談したが、後日、他の保護者から、「うちはマンションの玄関口で数分で終わった」「ドアは開けたまま、立ったままだった」と聞いて驚いたという。「当然家に上がってもらうものだと思っていました。でも今年はうちも玄関にしようかと思っています。掃除もしなくていいし」と打ち明ける。

 ◆教員側の事情

 玄関先での家庭訪問が増えている背景には、教員側の事情もある。

 ベネッセコーポレーションが平成25年、小中学生の保護者2335人を対象に行った「『家庭訪問』についてのアンケート」によると、面談を行った場所は「居間・リビング」が44・6%、「玄関先」と答えた人が43・4%だった。「玄関先」と答えた人に理由を尋ねたところ、「家に上がってほしくなかった」という回答が14・7%。一方、「先生が望んだ」が最も多く、71・4%に上った。

 大阪市内のある小学校は今年、4月下旬の4日間で家庭訪問を実施した。1人の教員が1日当たり回る軒数は多い日で12、3軒。校長は「家に上がると時間がかかってしまう。その後の訪問もあるので玄関先でとお願いすることが多い」と話す。

 小学校教員の経験があり、「百ます計算」の実践で知られる立命館大学教育開発推進機構の陰山英男教授は、「玄関先での家庭訪問が増えたのは、個人情報保護法が施行され、情報の取り扱いに関心が高まるようになった十数年前からではないか」と分析。「多忙な教員側の事情と、仕事などで忙しく家を片付けるのも大変、という保護者の思いが一致し、家庭訪問のあり方が変わりつつあるようだ」とする。

 ◆有用な指導資料

 文部科学省初等中等教育局児童生徒課によると、小中学校の家庭訪問については、「文科省から通達することもないし、報告義務もない」という。ただし、家庭訪問は保護者から情報収集し子供への理解を深めるために意義があり、「大事なのは保護者との信頼関係を築くこと。場所は関係ないので、教室で面談している学校もあると聞いている」と説明する。

 家庭訪問の意義について陰山教授は、「生活環境を見れば、それぞれの子供が抱える問題などもつかめる。教師にとっても有用な指導資料となる」と話している。