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引用元: 2015年5月12日 15時2分 livedoorNEWS

【経済裏読み】早慶に今年も圧勝…志願者数「日本一」の近大…偏差値信仰の岩盤を崩す次なる一手

 一般入試の志願者数で近畿大学が2年連続で日本一となった。


 卵からの完全養殖に成功した近大マグロ の知名度が全国区になった影響はあるが、専門家は「改革力と広報力の高さが際立つ」と指摘する。アカデミズムの世界には「大学が商売なんて…」とする批判 が根強いが、「稼ぐ大学」という偏差値以外の価値観を持ち込み、志願者増につなげている。(松岡達郎)


 完全ネット出願の草分け


 受験情報雑誌の出版を手掛ける大学通信によると、今春の一般入試で近大の志願者数は前年比7814人増の11万3704人。2位の明治大学が同190人増の10万5702人となり、差を前年の約400人から広げた。


 ちなみに3位の早稲田大学は同1930人減の10万3494人。4位の日本大学は同2466人減の9万4373人。以下は、法政大学、立命館大学、東洋大学、関西大学へと続く。


 近大の志願者増の理由について大学通信の安田賢治ゼネラルマネジャーは「改革力と広報力の高さが他の大学と比べて際立つ。改革とともに、その内容や研究成果を広報で見える化し、受験生や親だけではなく、社会に訴えている」と評価する。


  受験関連の改革としては近大は前年の入試から、全国で初めて完全ネット出願を導入した。願書出願では毎年、約100トンの書類セットを準備していたが、そ の4分の1程度が未使用のまま廃棄されていたことを踏まえ、紙を無駄にしない「エコ出願」としてアピール、認知度を高めた。


 そして社会的に効果的に認知してもらうため「エコひいきする大学」「カミだのみの受験はもうやめだ」などのキャッチフレーズのポスターなどで広報活動を展開。受験料の割引もあって志願者を増やした。


 改革力と広報力


 新学部の開設やキャンパス整備にも余念がない。


 現在の13学部48学科に加え、28年4月に国際学部を新設するとともに、新たに約400億円を投じて東大阪キャンパス(大阪府東大阪市)を再整備するなど改革に乗り出した。


  そして東大阪キャンパスの再整備計画を「超近大プロジェクト」と名付けた。全国紙の全面広告でアピールし、キャッチフレーズは「近大をぶっ壊す。」-。大 きな拳が学舎をつぶしている刺激的なデザイン。関西では私大を入試の偏差値をもとに「関関同立」(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)と、「産近甲 龍」(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)などに分け、前者を上位に位置づける大学の序列があり、それを崩すには自らを壊すくらいの覚悟が必要だという 思いを込めたという。


 改革力と広報力については、近大の世耕石弘広報部長は「今年で設立90周年の近大だが、100年以上の歴史を持つ大学がごろごろあるなか、歴史を誇るより革新する姿を発信していきたい」と説明する。


 経営や財務の改革


  改革の対象は、大学経営や財務基盤にも及ぶ。企業決算の最終利益に相当する「帰属収支差額」は25年度に前年度比7%減の105億円。病院収入の減少で前 年度から減らしたが、それでも前年度比60%増の169億円を計上した帝京大学に次いで全国の私大で2位とトップクラスを誇る。


 とはいえ 20年以上前には新学部や新キャンパス、新病院の開設などの投資が続いたため約600億円の借入金を抱えていた。このため近大は財務改革に着手。新規投資 を抑制し、会計単位をキャンパスごとに分けて収支と支出を細かく管理したという。すると、経営する総合病院からの収入もあって10年間で実質的に無借金経 営に転換し、26年3月末までに約880億円を積み立てるまでになった。超近大プロジェクトに投じる約400億円の資金も、この積立金から工面するため銀 行の融資などに頼る必要はないのだという。


 稼ぐ大学については「教育機関が金儲けするなんて…」という批判を受けることが多いというが、実学教育を建学の精神に掲げる近大では初代総長の世耕弘一氏が「研究・教育で収益を上げて何が悪い」と言い放った逸話が残る。


 近大水産研究所で育てた養殖魚を市場で販売していたことがアカデミズムに反すると批判されたときの反論の言葉だが、養殖魚の販売で稼いだ資金を養殖技術の研究費に回し、資金難のなかでクロマグロの完全養殖の技術を30年以上かけて成功させたという実績がある。


 近大は「研究や教育で稼ぐなんてと考える大学と違って、研究費を研究の成果で工面してきた歴史を持つ近大は民間企業と私大は変わらないという発想。稼ぐことは建学の理念の実学教育を実現するための財務基盤と考える」と説明する。


 ■さらなる伸びしろ


 その一方で、近大は実学の分野で地位を確立している。


 文部科学省によると、企業からの受託研究実施件数は25年度に254件で全国一位。6位の東京大学の150件や8位の京都大学の126件を上回り、「志願者数の日本一で注目も集まり、最近は企業からの技術相談が倍増している」(近大)と話している。


  また、これまでの累計特許出願は578件、登録は195件と関西私大でトップだ。アメリカのトムソン・ロイターが発表する大学ランキング URAP(2014~2015年度版)では、近大は国内ランク25位(世界ランク683位)と関西私大でトップ。研究論文の質と量、引用された回数、国際 的な共同研究などが評価基準となっており、近大の研究の評価は高い。にもかかわらず偏差値をもとにした大学の序列は崩すことはできない。


 そこで近大が打ち出したのが「稼ぐ大学」という価値観だ。偏差値に基づく岩盤のような大学の序列と別のブランドを構築し、「近大で稼ぐノウハウを学び、起業や就職後の力を養うことができる」ことをアピールし、志願者数の増加につなげる戦略だ。


 安田ゼネラルマネジャーは「偏差値を上げることは難しいが、新たな価値観で志願者を集めることには近大はもう成功している。数が増えると、質の高い層の学生の獲得につながり、大学のレベルも上げることになる」と指摘している。